「AIでバナーもLPも作れるなら、デザイナーの仕事はなくなるんでしょうか」
生成AIを制作現場で使う機会が増えてから、私たちの周りでもこのような声を聞くことが増えました。
現役のWebデザイナーからは、
「AIのほうが早く案を出せるなら、自分の価値はどこに残るのか」
という不安の声があります。
これからWebデザイナーを目指す人からは、
「今から勉強しても、将来の仕事につながるのか」
という迷いの声もあります。
この不安は、決して大げさなものではありません。
実際に、AIを使えばバナーの初稿やLPのラフ、コピー案、画像案を短時間で出せるようになっています。
以前なら数時間かかっていた作業が、数分で形になることもあります。
私たちALAKIのWeb制作・運用チームでも、AIをフル活用しながら案件を進めてきました。
自社でWeb制作と運用を行いながら、その現場知見を反映したWebサイト運用支援プラットフォーム「MONJI+」も開発・提供しています。
そのなかで見えてきたのは、Webデザイナーの役割は「消える」のではなく「変わる」ということでした。
AIが出した初稿をそのまま納品できた割合は20%未満。
残りの80%以上は、デザイナーが修正・統合したうえで納品してきました。
では、AI時代のWebデザイナーには何が求められるのでしょうか。
この記事では、私たちが実際にAIを使って失敗してきた経験をもとに、Webデザイナーの新しい役割を「制作の手」から「最終決定者」へと整理していきます。
AIでデザイン制作が早くなる一方で、現場では新しい課題も生まれています。
それは、「作れること」と「使えること」の間に、まだ大きな差があるということです。
AIは、見栄えのよいバナーやLPのラフを短時間で生成できます。
しかし、それがクライアントのブランドに合っているか、業界の慣習に沿っているか、ユーザーが信頼できる表現になっているかまでは、自動では判断してくれません。
最初に大きな差し戻しを受けたのは、AIが出力したコピーと画像をそのまま組み込んで提出した案件でした。
クライアントから返ってきた言葉は、
「うちのブランドじゃない」
というものでした。
AIは、過去のデザインパターンをもとに、整った見た目のアウトプットを作ることができます。
配色、構図、コピーの雰囲気も、それらしく整えてくれます。
しかし、そのクライアントが大切にしている言葉の選び方や、色の使い方の微妙なニュアンスまでは拾いきれませんでした。
別の案件では、AIで作ったLPを公開直前まで仕上げてから、「業界の慣習に合っていない」と気づき、作り直しになったこともあります。
AIは業界横断的に学習しているため、特定の業界だけで重視される表現の禁忌や、暗黙のコードを十分に反映できないことがあります。
つまり、AIは「それっぽいもの」を作るのは得意です。
一方で、「この会社らしいか」「この業界で信頼されるか」「このユーザーに違和感がないか」を判断するには、人間の文脈理解が必要になります。
もうひとつの課題は、制作後の成果検証です。
以前の私たちは、美しいデザインを納品しても、クライアントから
「で、この施策って効果あったの?」
と聞かれて答えられない場面が何度もありました。
公開後に成果を測定する仕組みを用意していなかったため、次の改善提案にもつなげにくかったのです。
AIによって制作スピードが上がるほど、クライアントが見るポイントは「早く作れたか」だけではなくなっていきます。
むしろ、次のような問いが増えていきます。
・この表現はブランドに合っているのか。
・このLPは成果につながっているのか。
・この修正は、何を根拠に判断したのか。
・次に改善するなら、どこから着手すべきか。
こうした問いに答えるには、制作物そのものだけでなく、判断の経緯や公開後のデータまで見ていく必要があります。
AI時代のWebデザイナーに求められるのは、単に「手を動かして作ること」だけではありません。
AIが出した案を検証し、クライアントと対話しながら、最終的な判断に責任を持つこと。
ここに、役割の変化があります。
では、制作現場では何から変えていけばよいのでしょうか。
私たちは、AIを使うこと自体を否定するのではなく、AIの出力を人間が判断しやすい形に整えることから始めました。
ポイントは、AI生成物を「完成品」として扱わず、「検証すべき初稿」として扱うことです。
まず行ったのは、AIが出した初稿に対して、どこを人間が修正しているのかを可視化することでした。
私たちの運用現場では、さまざまな生成AIツールを使って、バナーやLPのラフ、コピーの初稿を作るケースが増えています。
そのなかで記録してみると、AIが出力した初稿案をそのまま納品できた割合は20%未満でした。
残りの80%以上は、デザイナーが修正・統合したうえで納品しています。
修正内容は、主に次のようなものです。
・ブランドのトーンに揃える調整。
・業界の慣習に合わせる差し替え。
・誤情報の修正。
・デザイン同士の整合性の取り直し。
・ユーザーが信頼できる表現かどうかの確認。
ここで大切なのは、「AIが使えない」と結論づけることではありません。
むしろ、AIによって初稿作成の時間は短縮されています。
ただし、その後の打ち合わせ、修正方針のすり合わせ、検証作業に使う時間は増えました。
つまり、デザイナーの稼働時間が単純に減ったわけではありません。
内訳が「制作」から「対話と判断」に置き換わっていった、というのが実感に近いです。
この変化を見える化することで、デザイナーの役割を再定義しやすくなりました。
次に行ったのは、AI生成物に対する判断を、案件ごとに記録として残すことです。
AIの出力に対して、毎回その場限りで修正しているだけでは、同じ失敗を繰り返してしまいます。
たとえば、
・あるブランドでは使わないほうがよい言葉。
・過去にAIが出して却下された表現。
・業界特有の暗黙ルール。
・クライアントが大切にしているトーンやニュアンス。
こうした情報は、デザイナー個人の頭の中にだけ残しておくと、次の案件や別の担当者に引き継がれません。
そこで私たちは、「MONJI+」のフィードバック機能やWiki機能を使い、AI生成物に対する判断をプロジェクト内に残すようにしました。
たとえば、AIが生成したLPのラフをMONJI+上で共有し、キャプチャ画像に直接コメントを残します。
・「この表現はブランドに合っていない」
・「このビジュアルは業界の慣習とずれている」
・「このコピーはユーザーに誤解を与える可能性がある」
このように、修正理由を画面上に残していくことで、判断の経緯がプロジェクトに蓄積されていきます。
さらにWiki機能には、案件ごとのルールや過去の判断をまとめていきました。
AIに次の案を出させるときも、過去の判断ログを見ながら指示を調整できます。
新しく参加したメンバーも、過去に何が却下され、何が採用されたのかを確認できます。
ここで重要なのは、デザイナーの判断を「属人的な感覚」で終わらせないことです。
判断を記録し、一覧化し、次に使える状態にすることで、デザイナーの価値はプロジェクト全体の資産になっていきます。
最後に必要なのは、公開後の成果も含めて、次の提案につなげることです。
AI時代のWebデザイナーは、初稿を整えるだけでなく、「その施策がどうだったのか」まで見ていく必要があります。
私たちの現場では、公開後にGoogleアナリティクス連携機能を使い、クライアントとの修正依頼ややり取りと同じ画面で数値を確認できる運用に変えました。
これにより、デザイナーが納品して終わりではなく、
「この施策は本当に効果が出ているか」
「次に改善するなら、どこを見るべきか」
をクライアントと一緒に確認しやすくなりました。
もちろん、すべての施策で明確な成果がすぐに出るわけではありません。
AIを使ったからといって、必ず成果が上がるとも言えません。
それでも、修正のやり取り、判断ログ、公開後のデータを同じプロジェクト上に残していくことで、次の提案に必要な材料が少しずつ蓄積されていきます。
デザイナーが「作って終わり」の立場から、「成果を一緒に見て改善する」立場へ移っていくためには、この蓄積が欠かせません。
このワークフローに変えてから、私たちの現場ではデザイナーの役割に明確な変化が起きました。
以前は、デザイナーが制作だけで完結し、納品して終わりになるケースが多くありました。
しかし、AIが普及したあと、そのままでは価値を出しにくくなります。
AIが初稿を出せる以上、「きれいに作れること」だけでは差別化しづらくなるからです。
そこで私たちは、AIが生成したラフをクライアントと一緒に確認しながら、次のような観点で検証するようにしました。
・ブランドに馴染んでいるか。
・業界の慣習に合っているか。
・ユーザーが信頼できる表現になっているか。
・公開後の成果を見たとき、次に改善すべき点はどこか。
この流れのなかで、デザイナーは「AIの誤りを発見し、ブランドに馴染ませる最終決定者」として動くようになりました。
・AIが出してくる、もっともらしいけれど誤った表現。
・ブランドから少し外れたビジュアル。
・業界の文脈に合っていないコピー。
・ユーザーに違和感を与える可能性のある構成。
これらを見つけ、修正方針をクライアントと合意し、デザイン全体に責任を持つ。
その結果、クライアントからの認識も少しずつ変わっていきました。
単に「制作してくれる人」ではなく、
「成果に責任を持つパートナー」
として見てもらえる場面が増えたのです。
これは、AIが登場したからこそ起きた変化でもあります。
AIが制作の一部を担うようになったことで、人間のデザイナーには、より上流の判断や、公開後の改善まで含めた役割が求められるようになりました。
一方で、AIを活用した制作・運用には注意点もあります。
まず、AIを導入すれば単純に楽になる、というわけではありません。
私たちの現場でも、AIツールを導入した直後は、デザイナー自身が「これでもう自分は要らないのでは」と感じ、仕事への意欲を失いかけたことがありました。
また、AI生成をディレクションする立場に切り替えられず、「AIに勝とう」とスピード勝負をしてしまった結果、品質が落ちて手戻りが増えた時期もあります。
AIに任せれば時間が余ると思っていたのに、実際には検証や修正に追われて、以前より忙しくなることもありました。
ここで分かったのは、AIに任せれば楽になる、という考え方には限界があるということです。
AIの出力を扱える人がいなければ、品質も成果も下がる可能性があります。
もうひとつの注意点は、ツール環境が分断されていると、判断が蓄積されにくいことです。
・修正依頼はチャットツール
・ナレッジは別の管理ツール
・成果データは分析ツール
・制作物はまた別の場所
このように分かれていると、デザイナーが下した判断がどこにも残らず、流れていってしまいます。
判断が積み上がらなければ、次の案件でもまたゼロから確認することになります。
結果として、デザイナーの仕事は毎回「制作の手」に戻ってしまいます。
AIに代替されにくい役割は、特別な肩書きだけで生まれるものではありません。
クライアントとの対話、ブランド文脈の理解、業界ごとの判断、公開後の検証。
それらを継続的に残し、次に活かせる環境があって初めて、デザイナーは「最終決定者」として機能しやすくなります。
ここまでお伝えしてきたように、AI時代のWebデザイナーに求められる役割は、単に制作物を作ることだけではありません。
AIが出した案を検証し、クライアントと対話し、判断の経緯を残し、公開後の成果まで見ていくこと。
そのためには、制作・修正・ナレッジ・成果確認が分断されず、同じプロジェクト上に蓄積される環境が必要です。
私たちが開発・提供している「MONJI+」(https://monji.tech/ja/plus/)は、まさにそのような現場の課題から生まれたWeb運用プラットフォームです。
MONJI+では、WebサイトやLPのキャプチャに直接コメントを残し、修正依頼やフィードバックを整理できます。さらに、案件ごとの判断やルールをWikiとして蓄積し、Googleアナリティクス連携によって公開後の数値も確認できます。
AIが生成した初稿を「完成品」として扱うのではなく、クライアントと一緒に検証し、判断を残しながら改善していく。
そのような運用を進めたい制作会社やWeb担当者の方にとって、MONJI+はひとつの選択肢になると考えています。
また、MONJI+では、現場の制作会社や事業会社の方と一緒に、Webサイト運用のあり方を考える[共創の取り組み](https://monji.tech/ja/plus/co-creation/)も行っています。
AI時代の制作・運用において、どのように判断を残し、どう成果につなげていくのか。
同じ課題感を持つ方と一緒に、より実践的な運用の形をつくっていきたいと考えています。
生成AIによって、バナーやLPの初稿は以前よりも早く作れるようになりました。
その変化を前にして、Webデザイナーの仕事がなくなるのではないか、と不安に感じるのは自然なことだと思います。
ただ、私たちの現場で起きていることを見る限り、デザイナーの仕事はなくなっていません。むしろ、求められる役割が変わっています。
・AIが出したものをそのまま使えるか判断する。
・ブランドや業界の文脈に合わせて修正する。
・クライアントと対話しながら意思決定する。
・公開後の成果を見て、次の改善につなげる。
・その判断をプロジェクトに残し、次の案件にも活かす。
こうした「対話と判断の蓄積」こそが、AIには代替しにくいWebデザイナーの役割だと私たちは考えています。
AIを使うほど、人間の判断が不要になるわけではありません。
むしろ、AIで作れるものが増えるほど、何を採用し、何を修正し、何を残すのかを決める人の重要性は高まっていきます。
Webデザイナーは、制作の手から、最終決定者へ。
私たちはこれからも、AIを活用しながら、デザイナーの判断がきちんと残り、成果につながるWeb制作・運用の形を探っていきます。